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【祇園祭2026】鯉山のタペストリー・イーリアス・大鯉・ご利益・御朱印などにつき解説

概説

鯉山

鯉山は祇園祭後祭の山鉾で、応仁の乱以前から存在している山(舁山)です。応仁の乱後1500年以降、特段の事情なき限り巡行してきました。本稿では御神体たる大鯉、著名な懸装品たるタペストリー、ご利益、御朱印などにつき解説申しあげます。合掌

たけちよ
たけちよ

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大鯉と宮殿

概説

山鉾の主題は、神話、能、故事などに取材するものが多くありますが、鯉山では中国の故事に取材し、17世紀に左甚五郎により彫刻されたとされる、御神体たる巨大な木彫りの鯉と浪(なみ)が乗せられています。これらは鯉が龍門瀑を登る様子を表現しています。

龍門爆

「龍門瀑」とは、黄河上流にある難攻不落の滝門という滝の名称です。『後漢書』では、この滝を登り切った鯉は龍になると記載されています。

時に、鎌倉時代になると宋から禅宗が伝播しました。蘭渓道隆(らんけいどうりゅう)とという南宋の僧侶で、日本に帰化し、禅宗をもたらしましたところ、著書の『大覚禅省行文』の中で、鯉が生命を賭して瀧を昇り龍になる行為並びに背後にある意思を、雲水が修行を経て観音の智慧を得る過程での範とすべしとしています。また、『碧巌録』という禅公案とその注釈が記された書物にも登場します。この思想はその第七則において”三級浪高魚化龍”と記されています。

天龍寺龍門爆天龍寺龍門爆

龍門瀑は禅宗の庭園によくみられ、天龍寺にあるものが典型的な龍門瀑です。以前は『都林泉名所図会』にみられるように、実際に水が流れていましたが、現在は枯山水となっています。

シカさん
シカさん

1, 2, 3がそれぞれ滝で1と2の間に鯉を表す石があり、1の上に観音様を表す石があるよ。天龍寺に参拝してから、宵山に乱入するといいね。

七里ヶ浜親方
七里ヶ浜親方

詳細は以下のリンクを参照してくれ。龍門瀑はヘビ文字版しかねえ。すまねえ。

Ryomonbaku, a.k.a. Toryumon Makes Carp Dragon: 登竜門と龍門瀑につき英語で説明
Ryumonaku literary means "Dragon Gate (Toryumon) Waterfall" and found in many Zen temples. It shows us the way to be an enlightened person through the Buddhist training.
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大鯉

鯉山大鯉

大鯉は全長約1.5メートル、本体、ひれ、髭のパーツからなり、ひれ、髭は本体に差し込まれています。収納する箱には寛文二年(1662年)に新調した旨の記載があり、放射性炭素年代測定の結果もこれを裏付けます。

これらは江戸時代の名工、左甚五郎の作とされています。左甚五郎は実在の人物か否かは不明ですが、日光東照宮の眠りねこや三猿を作成したとされ、あまりの精密さから夜になると動き出したと伝えられます。

七里ヶ浜親方
七里ヶ浜親方

活躍した時代が300年くれえあるし、個人名なのかもしれねーし、master/ chef de彫る人みてえな意味でつかわれてたのかもしれねーのよ。後述するホメロスもほんとにいたのかわからねーし、まー、いいんじゃねーの?大鯉も『イーリアス』も現に残ってる事実の方が重要だべ。

鯉山鯉鈴

尚、真松には鯉があしらわれた鈴が二つ付いています。

鯉山大鯉

大鯉の下にある浪は龍門瀑としぶきを表していますが、これは大鯉とは別に明治五年(1872)に作成されたものです。それまでは、滝は苧麻(からむし。麻の一種)などで表現されていました。現在も名残が残っています。(鯉のあごのあたり)

また、欄縁(らんぶち。大鯉が乗っている胴体の上の縁の部分。赤枠内)にも浪の金工があしらわれています。

いわれ

この大鯉にはいわれがあります。室町六角付近にすんでいた大家が大津から用事をすませて帰る途中、渡し船にのっていたところ、手ぬぐいを取り出そうとして、小判を琵琶湖に落としてしまいました。その後、この顛末を正直者の男に話します。その後、その男が魚うりから琵琶湖の鯉を買ったところ、中から小判がでてきました。先ほどの顛末を思い出した男は大家のところに返しにいくと、大家は当該小判は鯉をかった人のもの故受け取れない旨伝えます。男も大家のものだと譲らないので、仕方なく役人に相談したところ、その小判で鯉を左甚五郎に彫ってもらい、山にするといい旨助言を受け、大鯉がご神体になったとするものです。

宮殿

鯉山前掛

宮殿(くうでん)のいう社が乗っていますが、ここには素戔嗚尊が祀られ、鳥居には八坂神社の扁額があります。数多の山鉾の中で、八坂神社とその御祭神が祀られているのは鯉山だけです。

タペストリー

鯉山タペストリー

鯉山の胴体は一枚のタペストリーを分断したものと、それらと縫い合わせられた清初の女性官服からなっています。

タペストリーには、”BB”とイニシャルが入っており、BBタペストリーとも称されます。16世紀にベルギーのブリュッセルで作成されたもので、ホメロスの叙事詩『イーリアス』の一場面が描かれています。(BBの意味については後述します)

七里ヶ浜親方
七里ヶ浜親方

すまねえ。他の祇園祭の記事だと、ホーマーとかイリアードとか書いてるけど、意味は同じだ。ヘビ文字だとイリアードで日本語だとイーリアスだ。

もともとのタペストリーはご覧のようになっていましたが、これを(厚さ故はさみが入らなかったため)ノミで切り分けています。巡行時には平成になって復元されたものが使用され、原本は宵山の期間会所で目にすることができます。

ブリュッセルで同時期に作成されたBBタペストリーは、鶏鉾、霰天神山、白楽天山などでも懸装品として用いられています。

このタペストリーについては、鯉山のタペストリーの写真と日本で作成された調査書に基づく、1979年にベルギー王立美術歴史博物館(Royal Museum of Art and History)のキュレイターの報告書(Report concerning some ancient  Brussels tapestries preserved in Japan (Kyoto and elsewhere)  がありますので、以下、要約します。

添付資料の復元図から以下三点が推論される。(原文はdeduction can be made)

  1. 外苑部分は1560年前後にブリュッセルで作成された動物学タイプ(zoological type)に属する
  2. 中央部のデザインから後期フランドルルネサンス(北方ルネサンス)期の作品と推定される。
  3. 中央部のデザインの主題はソロモン王とシバではなく、(その旨調査書に記載されていたと解される)キリスト教以前の歴史に属するものであり、国王と女王が羊さん(原文ではan offer of two sheep(?)と記載)をアポロン(ハープを持ち、月桂冠を冠していることからわかる)場面である。

上記から、本件タペストリーは1575年から1620年の間に作られた神話を主題とした作品群の一部である。このデザインはフランドルのものであり(surely Flemish) 、イタリアのものとは明確に異なる。(調査書ではイタリアから支倉使節に譲渡されたと記載されていたと解される)ただし、イタリア人は同時期のタペストリーを購入することはよくあったので、1613年に支倉使節にイタリア人から譲渡された可能性もある。

本件報告書の添付資料、並びに、ほかの同時期に作成されたと解される鶏鉾の懸装品など一連の作品の共通性から、当該作品群はホメロスの『リーリアス』に描かれるトロイ戦争の様子を描写したものであり、鯉山のものもこれに属する。

BB とは、Brabant-Brussells の略であり、ブリュッセルの市の紋章である。1525年より使用が義務付けられた。Brabant とはブリュッセルがある行政区(原文ではprovince or county)のこと。

また、翌年の書簡では、このタペストリーはカトリックの宣教師経由で日本にもたらされた可能性を示唆しています。

イーリアス

イーリアスはギリシャ神話に描かれるトロイア戦争に取材した作品であり、あらすじを要約すると以下の通り。

  1. トロイア戦争とは現在のトルコ辺りのトロイ王国とギリシャの10年間にわたる戦争で、イーリアスではその最後の49日間が描かれる。
  2. トロイアの王子パリスがアプロディーテ(ヴィーナスのこと)に入れ知恵され、ギリシャから絶世の美女ヘレネーを連れ去りしっぽりする。これが端緒となりトロイア戦争が勃発。
  3. この戦争でギリシャ最強の兵士、アキレウスが軍の偉いさんと対立し、戦線離脱。
  4. トロイア軍の英雄ヘクトルが攻めてくる。アキレウスの親友パトロクロスがアキレウスの代わりに出撃するが、ヘクトルに返り討ちにあう。
  5. アキレウスがブチ切れて再び参戦、ヘクトルをブチ〇し仇を打つ。その後、ヘクトルの亡骸に対し、市中引き回しをかますなど、怒りが収まらない。
  6. いたたまれなくなったヘクトルの父プリアモスはアキレウスに会いに行き、ヘクトルを弔いたい旨を伝える。アキレウスは遺体引き渡し、葬儀が執り行われ、終幕。

タペストリーの場面

概説

鯉山タペストリー

タペストリー中心部では先述の6、すなわちプリアモスがアキレウスに会いに行く前にアポロンに祈りを捧げ、鳥占いの啓示を待つ場面であるとされています。他方、外縁部は先述の動物学タイプ(zoological type)に属し、上が空(先述の報告書原文ではair)、左右が陸(先述の報告書原文ではearth)、並びに下が海(先述の報告書原文ではwater)が描かれます。

見送り

鯉山見送り

見送りをは山鉾の後方にかけられる懸装品のことです。冠をかぶって髭を生やしている人がプリアモス、隣は王妃へカベです。

胴掛(東)と水引

鯉山胴掛

竪琴を持っているのはアポロンの像、青い服の人は鳥占いをする神官、上には月桂冠を持した鷲が飛んできています。左右には清初の女性官服の一部が縫い合わせてあります。

水引(胴掛の上の部分)は空を表し、鳥さん(左からシギ、ハト、オウム、雉)が描かれます。

胴掛(西)と水引

鯉山胴掛

アポロン像の祭壇の部分が描かれます。ブタさんにのように見えるのが供物の羊さん、隣の女性はカッサンドラの可能性が示唆されています。

水引は海を表し、海獣と海神が描かれます

前掛

鯉山前掛

外縁部の左右の部分を分断して作られています。陸を表し、孔雀、ウシさん、などが描かれます。中心部の二枚の下の部分にそれぞれBBの文字があります。

ご利益

鯉山のご利益は先述の登竜門から導出されます。すなわち、出世運などが認められます。また、疫病退散が祇園祭の本義ですので、このご利益も当然に具備します。

御朱印と授与品

鯉山の御朱印鯉山授与品2019

七里ヶ浜親方
七里ヶ浜親方

手ぬぐいがイカしすぎ

御朱印はスタンプ式です。粽と茅の輪には小さな絵馬がついています。御朱印は会所入口向かって左側にあります。

参考文献

祇園祭参考文献

  • 高原美忠(1972)『八坂神社』學生社
  • 真弓常忠(1992)『神道祭祀ー神をまつることの意味』朱鷺書房
  • 真弓常忠(1992)『八坂神社』学生社
  • 真弓常忠(2000)『祇園信仰』朱鷺書房
  • 真弓常忠/編(2002)『祇園信仰事典』戎光祥出版
  • 下間正隆(2014)『イラスト祇園祭』京都新聞出版センター
  • 島田崇志/編(2024)『祇園祭細見 改定版』都の祭研究会
  • 鯉山誌編纂委員会(2024)『祇園祭後祭 鯉山』公益財団法人鯉山保存会
  • 鯉山誌編纂委員会(2024)『祇園祭後祭 鯉山 タペストリー編』公益財団法人鯉山保存会