概説
清水寺のご本尊は、本堂内内陣の須弥壇(しゅみだん)上の厨子内におわします、十一面(四十二臂)千手観音像です。この御本尊は厨子内の秘仏であり、原則33年に一度しかお目にかかることはできません。直近では平成20年(西暦2008年)の9月1日から11月30日までの期間、御開帳が行われました。また、例外として、平成21(西暦2009年)年3月1日から5月31日までの期間、西国三十三所観音霊場巡りを中興した花山法皇一千年大遠忌に特別の御開帳がありました。次の御開帳は2041年になる予定です。
厨子とは仏像などを安置するための仏具のことです。「清水寺式(せいすいじしき)」と呼ばれる特殊なお姿をされており、42本の腕の内、二対の腕で頭上に如来仏を抱いておられます。平泉の中尊寺にも清水式の千手観音像が祀られていますが、清水寺のご本尊の方がexquisite(繊細で綺麗みたいな意味)なお姿です。千本の腕と眼により、我々の苦悩に応じた方法で遍く救ってくださるという絶大なご利益があります。
御本尊の高さは約173センチ、檜の寄木造で玉眼を有します。寄木造とは、平安時代から始まった方法で、仏像の主要部分を一本の木からではなく、複数の木を使って作る方法です。玉眼とは、仏像内部から水晶を埋め込み眼を表現する技法で、鎌倉時代から用いられ始めました。同じく、白毫(びゃくごう。眉間の上にある毛。上記の奈良の大仏さんの写真を参照してください。)も水晶で表現されています。台座は蓮華、岩、框からなり、これを含めると、御本尊の全高は約260センチになります。清水寺は創建以来、10回以上大火に見舞われていますが、現在の御本尊は鎌倉時代に再建されたとされています。
普段我々が参拝できるのは、内陣に置かれた「御前立(おまえだち)」と呼ばれる代替品で、御本尊よりすこし小さ目に作られています。現在の本堂が徳川家光の寄進により再建されたときに同時に再建されたとされています。
同様に御正体(みしょうたい)という円盤のようなもを通じて参拝することもできます。
清水寺の舞台から見える谷を錦雲渓といいますが、ここは観音様がおわします、補陀落浄土が擬制されています。
また、脇侍には毘沙門天と地蔵菩薩が、それぞれ御本尊同様に厨子の中に祀れらています。通常、観音菩薩の脇侍は婆藪仙人(ばすせんにん)と吉祥天ですが、清水寺の場合は異なります。これは坂上田村麻呂公の逸話に基づきます。
すなわち、『清水寺縁起』によれば、坂上田村麻呂公が奥州で蝦夷との闘いで苦戦していたところ、清水寺の観音さまが、折から開山たる延鎮上人が田村麻呂公の勝利を祈願していた、毘沙門天と地蔵菩薩を同地に送り込み、田村麻呂公と朝廷軍を助けたといういわれに依ります。また、この逸話から、清水寺の脇侍は、「勝敵毘沙門天」、「将軍地蔵」とよばれます。将軍地蔵は通常のお地蔵様とは異なり、鎧を身にまとわれています。
総合ガイドは以下をご覧下さい。
現在、清水寺の工事は終了しています。詳細は以下のリンクをご覧ください。
舞台についてはこちらをどうぞ。
十一面千手観音とは?
概要
それでは、以下、十一面四十二臂千手観音像につき、文理に則り、その意義を明らかにします。
観音像
世にいう「観音さま」のことですが、厳密には「観世音菩薩」、「観自在菩薩」と呼ばれます。
サンスクリット語のAvalokitesvara Bodhisattva (英語だと「あばろきてぃしゅばら ぼうでぃさっば」と聞こえるかと思います。)を訳すときに、『観音経』では「観世音菩薩」、『般若心経』では「観自在菩薩」と訳されたという事情に基づきます。名称は異なりますが、同じ菩薩を表しています。
菩薩とは、「悟りを求めて修行している人」を意味します。自ら悟りを求めると同時に、仏の慈悲を以て衆生を救わんとします。出家前の王族だったころの釈迦がモデルになっており、天衣を纏い、ネックレスや腕輪などを身に着けた姿で作像されます。
そして、ものすごく簡単に申し上げますと、「苦悩にある人がどれだけいても、一発で救ってくれる」というご利益・功徳があります。
一般には、「その名を称えれば、それを聞き入れ、解脱させてくれる」、i.e., 七難を逃れせしめてくれる現世利益があるといわれま~す。
すまねえな。これについて話すと長くなるんだ。わかりやすく、且つ短くするとこんな塩梅だ。詳しく知りたい人は『観音経』を読んでみてくれ。合掌。
この「一発で救ってくれる」時、苦悩の種類に応じて、毘沙門天や帝釈天など、三十三の姿に変化し、我々を救ってくださいます。先ほど、御本尊は33年に一度御開帳されるともうしあげましたが、33年というのは、三十三の姿に変化して衆生を救うということに基づきます。
十一面
観音菩薩には実は沢山の種類があります。その中で、基本となるものを「聖観音(しょうかんのん)」と呼びます。密教の成立とともに、変化観音(へんげかんのん)と呼ばれる観音菩薩が現れます。十一面観音はこのうちの一つで、頭上に、前、左、右に各々3面ずつ、後ろと頭頂部に一面ずつ、合計11面のお顔を持ちます。(写真は法起寺の十一面観音像の絵葉書の写真)
前三面は「菩薩面」とよばれ、慈悲の心を表します。
左三面は「瞋怒面(しんぬめん)」とよばれ、戒めの心を表します。
右三面は「狗牙上出面(くげじょうしゅつめん)」とよばれ、菩薩の面ですが、牙をむき出し、衆生を励ます心を表します。
後ろの一面は「大笑面」といい、悪を笑い滅する様を表します。
頭頂部は「仏面」といい、如来をいだきます。如来とは、最高位の仏のことで、「真理として来た人」という意味を表します。菩薩同様に、釈迦がモデルになっていますが、王族の時の姿ではなく、成道時(悟った時)の姿を模していて、シンプルな服装をしています。
これら十一面は、菩薩が修行して仏位を得るまでの過程を示すと解されます。
清水寺のお前立ちは宝冠をお召になっているので、頭頂の仏面しか見えません。
もし十一面すべてをご覧になりたければ、奈良の法輪寺がおすすめです。後ろの大笑面も拝見することができます。
千手観音
千手千眼観音菩薩と呼ばれます。千は無限という意味で、それぞれの手には眼があります。これを以て千の世界を観、衆生を救ってくださいます。奈良の唐招提寺の千手観音像は実際に千本の腕がありますが、平安時代になると、42本の腕で表現されるようになります。(写真は東大寺ミュージアムのポスター)一本の腕で25の世界を観、救済するので、千本の腕と同様の効用があります。十一面観音像と同様、頭上には11面の化仏がおわします。
冒頭でご紹介しましたように、清水寺の千手観音像は「清水寺式(せいすいじしき)」と呼ばれ、二本の腕で頭上に如来化仏を抱かれています。菩薩で在りながら、如来と一体化し、苦しむ者を残さず救ってくださいます。
ご利益
病気の治癒、滅罪、福徳、敵から守ってもらえる、所願成就、安産、男女の産み分けなどのご利益があるとされています。
清水寺の基本情報
清水寺へのアクセス
市バス四条河原町、京阪祇園四条駅・阪急河原町駅で下車し、徒歩で清水寺へ。徒歩約30分。最寄りバス停は五条坂、若しくは清水道バス停ですが、当サイトでは混雑するので推奨しません。詳細は以下のリンクをご参照ください。