東寺立体曼荼羅概説
- 曼荼羅とは、密教の教え、根本経典たる胎蔵界曼荼羅、並びに金剛界曼荼羅を絵などで表現したものである。東寺の講堂内の立体曼荼羅はこれらを仏像を用いて表現している。
- 立体曼荼羅は羯磨曼荼羅(かつままんだら)ともよばれ、五智如来像(如来部)、五菩薩像(菩薩部)、五大明王像(明王部)、並びに天部から構成される。これらを手段として内証(己の心で悟ること)に至ることを目的としている。
- 五知如来、五大菩薩は金剛界曼荼羅に、五大明王は胎蔵界曼荼羅に示される。
- 立体曼荼羅の創建は839年とされるが、五智如来五体、並びに金剛波羅蜜菩薩は1486年に焼失。尚、現在の配置は古の配置と若干異なる。
- 本投稿に使われている仏像の写真はすべて絵葉書を、曼荼羅は下敷きを撮影したものである。講堂内は撮影厳禁である
密教とは?
密教とは秘密の教え(仏教)のことです。この秘密とは内証(己の心で真理を悟ること)、すなわち釈尊の悟りを意味します。この内証は言葉では説明できないとされます。
空海は、『御請来目録』の中で、”密蔵深玄翰墨難載 更假圖畫開示不悟(密蔵は深玄にして翰墨に載せ難し 更に図画を仮て悟らざるに開示す)”と記しています。これは「密教の深遠で文字では説明できない。故に図画を以ていまだ悟っていない人に示す」といった意味で、密教の意義を端的に示しています。

弘法さんの師匠の恵果も真言の教えは経典やその注釈所には詳細にはかかれていないので、図画を用いる必要性があると説いてんのよ。つまり、曼荼羅は悟りに至るために用いられるってことだべ。
この内証に至ること、ならびに現在の身のままで仏になること(即身成仏)が密教の核心となります。そして立体曼荼羅は密教(真言宗)の根本経典たる『大日経』、並びに『金剛頂経』を図解することにより、これを表しています

弘法さんの『即身成仏義』についてみてみんべえか。言語を介して説示する顕教では、三却成仏つって、悟って仏(enlightened person) になるにはオニのように長え時間修行しなきゃなんねーところ、密教では即身成仏つって、現在の状態のまま仏になれると説いていて、その根拠に『大日経』と『金剛頂経』を挙げてんのよ。さらに、同著の中で万物は仏である、i.e., 現時点で仏じゃねー人も仏たり得るとしてんのよ。で、これを空海が表現したものが後述する羯磨曼荼羅(立体曼荼羅)とするのが通説的見解よ。
曼荼羅の意義
立体曼荼羅とはいくつかある曼荼羅のうちの一つの態様です。曼荼羅とは、サンスクリット語で、「本質を有するもの」を意味し、密教の教義に則り、密教の諸尊を配置した絵を配し、先述の『大日経』、並びに『金剛頂経』を図解します。
曼荼羅には以下の四種があります。
- 大曼荼羅・・・諸尊が絵で示される
- 法曼荼羅・・・諸尊が梵字で示される
- 三昧耶曼荼羅・・・諸尊が所持する物(金剛杵など)、若しくは印で示される
- 羯磨曼荼羅・・・諸尊が仏像で示される
東寺の立体曼荼羅は4の羯磨曼荼羅に該当します。
胎蔵界曼荼羅と金剛界曼荼羅
概説
曼荼羅は胎蔵界曼荼羅(写真左)と金剛界曼荼羅(写真右)の二者から成り、両者を合わせて両界曼荼羅と称します。両界曼荼羅の中心にはいずれも密教の主尊たる大日如来が描かれ、万物が大日如来の分身であることを提示します。両者はそれぞれ、空海が唐から持ち帰った密教たる真言宗の根本経典である『大日経』、ならびに『金剛頂経』に基づいています。
- 胎蔵界曼荼羅・・・『大日経』を図解したもので、418尊が描かれ、大日如来の解く心理が遍く伝わり、衆生に仏心が生まれる様子を表現します。
- 金剛界曼荼羅・・・『金剛頂経』を図解したもので、1,161尊が描かれ、九会と呼ばれる九つの区域に分けられ、1461尊が配され、衆生が悟りを実践する過程が示唆されます。
立体曼荼羅の五知如来、五大菩薩は金剛界曼荼羅に描かれます。他方、五大明王は胎蔵界曼荼羅に描かれます。
胎蔵界曼荼羅
『大日経』に説かれ、正式には『大悲胎蔵生曼荼羅』と称し、大日如来の大慈悲から生まれれ曼荼羅を意味します。大日如来の大慈悲には以下の三者があります。
- 除闇編明(じょあんへんみょう)・・・大日如来の大慈悲の光明が昼夜の如何を問わず、遍く注ぐこと
- 能成衆務・・・当該光明が衆生の菩提心を照らし、善根功徳の成すように助けること
- 光無消滅・・・当該光明はついえることがない
そして、胎蔵界曼荼羅においては、これらの大慈悲が同心円状に波及していく様子が描かれます。

胎蔵界曼荼羅の一番外側にかつて伏見稲荷で祀られていたダキニ天(お稲荷さん)も描かれてんのよ。
金剛界曼荼羅
『金剛頂経』に説かれます。『金剛頂経』は広義では複数の経典の総称、狭義では『金剛頂一切如来真実摂大乗現証大教王経』を意味します。金剛とはダイヤモンドのように堅固なことを意味し、不滅である大日如来の智慧、悟りを示します。九つに区切られますが、その中には一部を除き、ほぼ同じ仏が描かれます。中心は成身会(じょうじんえ)であり、「五相成身観」(五相の観想を経て真言を以て悟りに至る方法)により悟りに至った様子を示し、大日如来、宝生如来、阿閦如来、阿弥陀如来、不空成就如来から成る五知如来が描かれます。
五知如来は以下を象徴します。
- 大日如来・・・法界性智(悟りそのもの)
- 宝生如来・・・平等性智(あらゆるものを平等に見ること)
- 阿閦如来・・・大円性智(あらゆるものを明確に写すこと)
- 阿弥陀如来・・・妙観察智(衆生を観察し適切に導くこと)
- 不空成就如来・・・成所作智(衆生を導くことを完遂すること)
東寺立体曼荼羅概説
東寺の立体曼荼羅は講堂とよばれる建物の中にあります。仏像は如来部(五智如来)、菩薩部(五大菩薩)、明王部(五大明王)、並びに天部の四つに分類されます。いずれも堂内の須弥壇の上に配されます。

東寺のご本尊は薬師如来で、講堂の南にある金堂(こんどう)に祀られていて、立体曼荼羅がご本尊なわけではないよ。
須弥壇の大きさは幅24メートル、奥行6.8メートル、高さ90センチの壇、その上に中央に五体の如来(五知如来)、右側に五体の菩薩(五大菩薩)、左側に五体の明王(五大明王)が配され、それらを四隅の四天王、左右の梵天・帝釈天が囲みます。21尊の仏像により構成されます。839年に開眼されたとされ、1965年に至るまで秘仏とされていました。

尚、当初の配置は現在のものと若干異なります。また、現在の須弥壇は当初の須弥壇の上にあります。また、大日如来の台座の下には護摩を焚いたような跡があります。
その後、1486年の文明の土一揆で講堂が炎に包まれたとき、僧侶が堂内の仏像を運びだしましたが、後述いたします、五智如来像5体、並びに金剛波羅蜜菩薩は運び出すことができず、焼失してしまいました。

大日如来像も運びだしたかったろうけど、デカ過ぎて無理だってみてーだ。
立体曼荼羅の意味 三輪身説(従来の通説的見解)
概要
三輪身(さんりんじん)説とは、従来の通説的見解で、中央に自性輪身、左右に正法輪身と教令輪身に則り、立体曼荼羅の諸仏を配したとする説です。
三輪身とは仏の威力とその態様を表し、以下の三者に区別されます。
- 自性輪身・・・仏法の真理や智慧。衆生に道を示す。
- 正法輪身・・・衆生に仏法を説き、やさしく導く様
- 教令輪身・・・衆生に仏法を説き、力ずくで導く様
理論構成
空海が記したとされる『秘蔵記』では五大明王と五大如来の忿怒身であると説かれます。
- 大日如来・・・不動明王
- 宝生如来・・・軍荼利明王
- 阿閦如来・・・降三世明王
- 阿弥陀如来・・・大威徳明王
- 不空成就如来・・・金剛夜叉明王
そして、これらに対応する五大菩薩も解かれます。
- 大日如来・・・金剛波羅蜜菩薩・・・不動明王
- 宝生如来・・・金剛宝菩薩・・・軍荼利明王
- 阿閦如来・・・金剛薩埵菩薩・・・降三世明王
- 阿弥陀如来・・・金剛法菩薩・・・大威徳明王
- 不空成就如来・・・金剛業菩薩・・・金剛夜叉明王
自性輪身は須弥壇中央に配され、真理を表す金剛界の五仏(五智如来)右に衆生を教化し救済する五仏の慈悲の姿を表す正法輪身(五大菩薩)、そして 教えに従わない者を威圧して教化する教令輪身(五大明王)を意味し、大日如来が衆生の求めに応じ、諸仏の姿で変化する様相を表すとされています。鎮護国家、天下泰平を説く『仁王経』から、五菩薩、五明王、五方天を、『金剛頂経』から五如来を選別したと解されています。
天部の配置については、後述する金剛界曼荼羅の方角との関係から導出されたものと解されます。
『金剛頂経』、並びに『仁王経念誦儀記』説(有力説)
『金剛頂経』、並びに『仁王経念誦儀記(にんのうぎょうねんじゅぎき)』を根拠とするとする説です。これは立体曼荼羅が作られた当初の配置を説明するもので、現在の配置とは異なります。

空海の入唐時には『金剛頂経』においては、金剛界曼荼羅に関して中心をなす成身会(じょうじんえ)の諸仏の配置に関する記述があり、ここから如来と菩薩の配置が導かれます。赤い円が如来、黒い円内の字がそれぞれ菩薩を表します。
- 大日如来・・・金剛波羅蜜菩薩
- 宝生如来・・・金剛宝菩薩
- 阿閦如来・・・金剛薩埵菩薩
- 阿弥陀如来・・・金剛法菩薩
- 不空成就如来・・・金剛業菩薩

さっきの図を実際の配置図にあてはめるとこうなるよ。ただし、現在の配置ではなく、創建当初の配置だよ。
次に、『仁王経念誦儀記』においては菩薩には菩薩には明王たる身もあるとされ、菩薩と明王の対応関係が導出されます。
- 大日如来・・・金剛波羅蜜菩薩・・・不動明王
- 宝生如来・・・金剛宝菩薩・・・軍荼利明王
- 阿閦如来・・・金剛薩埵菩薩・・・降三世明王
- 阿弥陀如来・・・金剛法菩薩・・・大威徳明王
- 不空成就如来・・・金剛業菩薩・・・金剛夜叉明王
更に、『仁王経念誦儀記』からは、明王と天部の関係も導出されます。
- 大日如来・・・金剛波羅蜜菩薩・・・不動明王・・・帝釈天
- 宝生如来・・・金剛宝菩薩・・・軍荼利明王・・・増長天(南)
- 阿閦如来・・・金剛薩埵菩薩・・・降三世明王・・・持国天(東)
- 阿弥陀如来・・・金剛法菩薩・・・大威徳明王・・・広目天(西)
- 不空成就如来・・・金剛業菩薩・・・金剛夜叉明王・・・多門天(北)

そして、四天王の位置は金剛界曼荼羅の方位と対応しています。
こうして四天王は四方に配置されましたが、余った帝釈天は対に梵天を加え、数のと配置の整合性を図ったものと解されます。

いずれの説に基づいて作られたのかは正直わからねえ。オレはお坊さんじゃねーからな。ただし、いずれも矛盾抵触はねーし、合理性もあんじゃねーの?
立体曼荼羅の金堂内諸仏の現在の配置
五智如来
- 大日如来
- 阿弥陀如来(宝生如来)
- 宝生如来(阿閦如来)
- 不空成就如来(阿弥陀如来)
- 阿閦如来(不空成就如来)
かっこ内は創建当初の配置。
五大菩薩
- 金剛波羅蜜菩薩
- 金剛法菩薩(金剛宝菩薩)
- 金剛宝菩薩(金剛薩埵菩薩)
- 金剛業菩薩(金剛法菩薩)
- 金剛薩埵菩薩(金剛業菩薩)
かっこ内は創建当初の配置。
五大明王
- 不動明王
- 軍荼利明王
- 降三世明王
- 大威徳明王
- 金剛夜叉明王
創建当時と同じ配置
天部
- 増長天
- 帝釈天(梵天)
- 広目天
- 持国天
- 梵天(帝釈天)
- 多門天
立体曼荼羅諸仏の仏舎利
仏舎利とは何か
仏舎利とは釈迦の遺骨のことです。入滅後はストゥーパに安置されていましたが、その後、中国にも渡ります。空海は朝廷へ提出した目録の中で、師たる青龍寺の恵果から80粒(金色のもの一粒を含む)を譲りうけた旨、記載しています。これらは五重塔内、立体曼荼羅の諸仏に納入されました。
立体曼荼羅諸仏に収められた仏舎利
前述のように、立体曼荼羅の諸仏は839年に開眼されたものと解されていますところ、1197年から運慶を中心として東寺の修復が始まり、立体曼荼羅を構成する諸仏もこの対象となります。この時、五智如来の中心に位置する大日如来像、並びに天部を構成する四尊を除く十四体の仏像内から、計25粒の仏舎利、真言が記載された紙、香木が発見されました。
尚、当初の大日如来像は1486年の土一揆で滅失し、1499年に再興されましたところ、1997年に行われた修復の際、その中に仏舎利が納められていたことが確認されました。







